Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


 BMP7314.gif 歌声のしずく BMP7314.gif


     14



蚊トンボみたいにのっぽで寡黙。
いつも黒ずくめの恰好なのも、
目立たないよう心掛けてのことと、多少は威圧も兼ねてだろうと。
そんな“型”に嵌まったいで立ちを通すことで、個性を塗り潰していた、
Mr.用心棒の方こそが、
身元も怪しき海賊の、しかも頭目格という大幹部だったそうで。

 「大をつけるのは大仰かも知れないけれど。」

うふふと微笑ったロビンが言うのも ある意味ごもっとも。
かつてバロックワークスにいたこともあって、
名のある海賊に関しては、大概 チェックしていた彼女だし。
麦ワラの三巨頭に遊ばれて、抵抗する気力もなくなってから、
あれこれと事情を訊いたところの、
此処では タリオーヌと名乗っていたその男。
数年ほど昔に自分が乗ってた船の船長と袂を分かつた、
副船長だか班長だかだったそうで。
彼が苦々しく白状した船長さんのほうは、
ロビンも“ああ あの”と名前でお顔を思い浮かべられたほどの、
結構な懸賞金(バウンティ)もついてるお人だったのだとか。

  ……で、
  一体 何でまた、
  不思議なことには違いないとはいえ、
  こんなのどかな島のお祭りにからんで来た彼だったかといやぁ。


 「という、
  肝と心と書いて“肝心”な謎解きのその前に。」(いやん)


表向きのお祭り自体は、
歌姫選考の歌声くらべの後も、
何事もなかったかのようにつつがなく進められていて。
ビーチで催されていた
『砂浜を駆け抜けろ、熱いぜビーチフラッグ大会』と、
そのすぐお隣の波打ち際にて催されていた
『今宵の女神はあなただ、ビーチクィーンコンテスト』も、
予選から始まった熱い戦いが決勝戦を迎えての、順次 穏当に鳧がついていたし。

 「う〜ん。
  時間が余ってりゃあ、
  アタシもそっちに出たかったんだけどもなぁ
。」

 「ビーチフラッグなら、サンジが優勝したぞ?
 「結構な美人がゴール地点に立ってたからな。」
 「………じゃあなくて

ビーチと言ったら
『本物はどれだ、割らずにゴールまで キャリー&ダッシュ!』
なんていう、変則的なスイカ割り?もあって。

 「スイカ、割りなの?
 「おう。」
 「コースのあちこちに置いてあったスイカの殆どが、
  この島の名物、
  蔓からもぐと5分で弾けるっていうクラッシュメロンで
。」
 「何だ、そりゃ。」
 「どういう名物なの?
 「果汁が美味しいので、
  そのままジュースとして飲むらしいですよ♪


 「1つだけ、
  一般的な“スイカ”が紛れ込んでたのを
  ゴールまで持ってったら優勝ってレースだったんだけど
。」
 「ゾロが匂いと重さで見事当ててよ。」
 「あらまあ。」

 「何でも故郷では夏の風物詩的おやつだったとか。」
 「……あー、何か判るな、それ。」
 「うっせぇな。//////」(←あ)

島の名物 沢ガニの蒸し饅頭大喰い大会のほうは、
最初の予選の時点で、
とある出場者が作り置きを瞬殺レベルで一掃してしまったという
前代未聞の事態が生じ、(笑)
何と午前中の一発勝負で優勝者が決まってしまったもんだから。
午後は、沢ガニを掴み獲りし、それで作った饅頭を食べるという、
変則的な競争に様変わりしちゃったらしく。
だがまあ、
それはそれで 家族総出で参加出来る楽しいゲームとして大ウケし。
しかも、おわび?も兼ねてか、優勝しちゃった坊やの保護者が、
その場で一口味見しただけで閃いたという、
カニの風味を生かした絶品料理のレシピをご披露くださったので。
結果としては随分な盛り上がりだったとか。

 「美ん味かったぞ、ここのカニvv
 「だったよなぁ〜〜〜vv
 「サンジのシュウマイと、
  あんかけチャーハンだって絶品だったぞvv


 「……あんたら、
  そうまで目立って、顔 売ってどうすんの。


 「美人コンテストに
  出ようとしていた奴に言われても
。」

 「ぬぁんですってぇ?


  ……………十分 堪能してませんか、あんたたち。(苦笑)


そんな具合で 充実したお祭りが平穏に盛り上がってた裏側では、
祭りの主役たる歌姫を誘拐しかかった狼藉者を一斉逮捕し、
聖泉の宝珠をくすねようとした、実は海賊だったタリオーヌ込みで、
今日だけ“衛士”という格の自警団のおじさまたちが、
海軍の出張駐在所へ束ねて引き渡して、お褒めの言葉をいただいており。

 「一人でも賞金が懸かってりゃあ、
  引き渡しも俺らに任せたんじゃねぇのか?」
 「何か引っ掛かる言い方よね、それ。」

ウソップの大胆なご指摘にあって、
飴がけされた棒つきアンズを、指揮者のタクトのように振り向けながら、
ギュウゥッと眉をしかめ、目元も眇めたナミだったが、

 「バウンティつきの海賊なんて、素人じゃあ危ないですものね?」

おおお、そんな正論持ち出しても 説得力ねぇ〜と、
呆れ掛かったウソップが、
背後からの声の主を見やって“おおおおお?”と小首を傾げ。
今日は休憩所として解放されている教会前の広場の一角、
噴水つきの泉で水しぶきを上げてはしゃぐ、
トナカイさんやゴムゴムの船長といった顔触れを、
石段や木陰から眺めていた保護者組の面々が、
そんな声音を聞きつけ、
何だなんだと順番にその視線を向けた先にいたのが、

 「あ、アンダンテのおっさんだ。」
 「せめてお兄さんにマケておくれよ。」

自己紹介をし合っていたのは、ルフィとゾロ、ブルックの3人だけ、
町長さんチの居候にして、教会の聖歌隊の指導担当、
あのちゃんの相談相手や宥め役でもあった、
気のいいお兄さんが、
こんにちはと、全員集合状態の“麦ワラ”の面々へと会釈を見せる。
そろそろ陽も傾き掛かっており、
祭りのクライマックス、神殿での宝珠の奉納という舞台を見物にと、
人々は徐々に徐々に山のほうへと向かっておいで。
遠目にではあるが、奇跡の輝きは海の上からでも見物は出来るのでと、
帰りの混雑を避けたいクチの方々は、早々と港へ向かってもいて。
どっちにしたって、
ここからは腰を上げてく人々が多い中なので、
よほどに声を張り上げでもしなければ、
誰も気に留めやしないよな場所と間合いでもあって。
そんなせいもあってのことか、

 「昼間はちゃんがお世話になりました。」

禊斎の儀式が始まって以降は、
聖なる存在として
一般人とは接することが出来ない…というのが
大前提となった歌姫さんだったが。
あんな騒動に巻き込まれたこともあり、
お祭りの世話役の一人だったらしいこちらの彼へも、
“事情”がこっそりと伝えられてたらしくって。

 “アタシたちもお尋ね者だってところは
  まるきり気づいてもないようだけど。”

伸し歩くそこここで威嚇的なガンを飛ばすような真似もせずの、
至って穏当な、お気楽そうな顔触れなので。
一見しただけでは
“海賊”だってことさえ気づかれぬだろう一団でもあり。
さすがに例のならず者たちの乱入をやすやすと制したことで
ただならぬ腕の持ち主たちだというのは気づかれたものの、

  用心棒まがいの真似をしたくらいだ、
  単なる観光で立ち寄っただけ。
  何にもしないで出てくから、
  海軍への通報のほうは控えてねと、

直接接した皆様へも、あらためての口止めをさせていただいてある。

 “まあ、騒ぎより先に
  個人的に知り合いになってた間柄だしなぁ。”

それもあってのこと、
一騒動あったのだという伝達の中、
案じて駆けつけた彼だったのへ、
ちゃんが直々に事情を話したのかも知れず。
それもあっての“保護者発言”なんだろなと、
ウソップやブルック、ナミやサンジが、
いやいやこちらこそお騒がせをと言いたげな、
お構いなくご遠慮なく属性、お礼なんてとんでもない系
恐縮返しの表情をしかかったのだが、(何やそれ・笑)

 「本来だったら、あなたが守り切るのが筋だったから、かしら?」

そんな面々の向こうから、思いがけない一言が投げられて。
指摘をされたアンダンテ氏はもとより、
こちらもぎょっとした仲間内らが、
一番の背後に陣取っていた彼女のほうへとお顔を向ける。
そう、そんな意外な物言いをしたのは、
つややかな黒髪の考古学者、海賊の裏事情にも詳しいロビンお姉様であり。

 「守るって。」
 「海賊の襲来じゃあ、この兄さんには無理があったろうによ。」

現に蛮刀引っ下げて乱入して来た輩であり、
それを自分たちが畳めたのは、
戦闘慣れした顔触れがそろっていたから。
いくら歌姫さんの保護者であれ、一般人に無理を言っちゃあいけないと、
チョッパーやウソップが庇うように連ねたものの、
クールなお姉様の様子は揺らぎもせぬまま。
形よく組まれた御々脚の膝頭へ肘をつき、
相変わらずのミステリアスな微笑を、
心なしか楽しげなそれとして浮かべつつ。
彼女が続けたのは……意外な一言で。

 「アンダンテ、本当の名前はアルデンテよね。
  グリングル海賊団 哨戒長にして、情報収集の達人、だったかしら。」

   はい?

 「ぐり?
 「あれ? どっかで聞いたような。
 「あのな…。」

さすがにそういう、
警戒に必要な基礎知識的情報ともなると、
大人サイドの面々には、拾われての伝達もされていたようで。

 「…俺は聞いてねぇが。
 「俺もだ。
 「安心しな、俺へも届いてなかった。

ちょっぴり前かがみになっての、険しいお顔という、
ポーズだけはお揃いな若手の男衆が口を挟んで来たものの、

 「そりゃあ、あんたらへは、
  言ったって意味が判らないかも知れなかったし。」

ナミがあっさりと一蹴した、
戦闘班プラス狙撃手さんが目許を眇めたのはともかくとして。

  この群島の外延のどこかを根城にしているらしき、
  結構な船団を構える海賊の一味。

海軍までもが一目置く存在だそうだが、
どんなおっかない悪行をしたのかまでは伝わってないらしく、
なので、嬢も
ただのおっかない存在だとしてしか把握してはなかったようだけれど。
ついでに言えば、
彼女がヘルメデス氏を悪党だと思い込んでいたのも、
そのグリングル海賊団へ付け届けをして後ろ盾になってもらっているからで。
何かのおりに“逆らうようなら奴らを呼ぶぞ”なんて、
虎の威を借りているくせに、偉そうに凄んでたのを聞いたことがあるもの…と。
そういう順番で“悪い奴”のカテゴリへと
あのオーナーさんを据えていた、言わば“悪”の対象のはずだけれど、

 「いくらログを書き換える“特異点”的な島だとはいえ、
  こんな平和な小島に、
  グリングル海賊団の哨戒長、
  何かコトを前にしての情報収集や監視を担当する責任者格のお人を、
  2年以上も送り込んだままにしておくかしらね。」

黒燿石の目許をたわめるようにして細め、
それは楽しそうに口にするロビンだということは、

 「ありゃあ、既に全貌を掴んでるな。」
 「え〜、そうなんですか? フランキーさん。」

年長組、男性陣サイドの二人が、
クラッシュメロンにストロー差したの分け合って飲みながら、
こそこそと示し合っているその通りであるようで。


 「恐らく、あのタリオーヌとやらが
  どうしても此処の神殿の大岩戸を開けたがってたことに
  関係するのでしょう?」


小さな小さな島の、年に一度のにぎやかな一日を締めくくる、
聖なる神事の最後の最後を待つ海を、
それは穏やかな夕焼けが、静かに染め始めていた刻限の風が、
麦ワラ海賊団 プラス、
某よその海賊団の幹部という顔触れの佇む広場へもそよぎ込み。
さわさわと木立や噴水をささやかに騒がせて、
何食わぬ顔で通り過ぎていったのだった…………けれども。





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  *ああああ、何で終わらないんだ、あと ちょっとなのにっ。
   やっぱり全員をいじろうとしたのが敗因だな、うん。
   この章だけ、試しに台詞を色分けで表示してみましたが
   ややこしいのなんの。(もうしません…)
   今度この手のお話を書くときは、
   ゾロルとサンジさんとナミさんと、それからえっとえっと…。
   ともかく、もうちょっと頭数を絞ろうと
   反省したもーりんだったのでございます。

   次で終わるから、今度こそ終わるから、うん。


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